『天は赤い河のほとり』の戦うヒロインと二人の哀しい女性
宝塚版の『天は赤い河のほとり』は現代の日本から古代メソポタミアのヒッタイトに呪術でタイムスリップされられた鈴木夕梨(ユーリ)とカイル王子のラブストーリーに、エジプトの軍人・ラムセスが絡むラブストーリーと考えるのが、一番妥当でしょう。
ユーリはまさに現代の女子高生の代表的なイメージであり、現代の日本では日々平穏に過ごしながらもモラトリアムで「生きること」の実感もなく、また目的すら持ってはいません。
しかしヒッタイトにタイムスリップして、「生きること」はまさに死と隣り合わせにあることを知り、自らヒッタイトの民のために剣を持って戦い、人生を自らの手で切り開くことを学びます。
そしてラストではカイルと結婚し女神イシュタルとして、また皇妃(タワナアンナ)にとして生きる道を自分の人生と決めるのです。
↓↓エジプト皇太后・ネフェルティティ
(出典:https://twitter.com/)
一方、この物語には二人の悲しい運命を生きた女性が登場します。
一人はシュッピルリウマ1世(寿つかさ)の3番目の皇妃・ナキア(純矢ちとせ)。
もう一人はエジプト王太后・ネフェルティティ(澄輝さやと)。
ナキア皇太后は祖国バビロニアのために若くして父親のような年齢のシュッピルリウマ1世に嫁ぎ、ウルヒ(星条海斗)との叶わぬ恋を諦めます。
そして我が子であるジュダ王子を皇位につけるために悪に手を染め、カイル王子、ユーリを陥れる。
またネフェルティティもまた母国ミタンニのために、エジプトへ嫁ぎ、自分を守るためならば敵国であるヒッタイトと密約を結ぶことすらいといません。
ナキア皇太后、ネフェルティティという二人の哀しい女性達は、自分の運命を自分の手で切り開くことなど想像すらできない古代オリエントという時代に生まれ、生きてきました。
ユーリとは真逆の存在として、昔の女性の選択のない人生に哀しみを感じます。
宝塚版『天は赤い河のほとり』は、ユーリ対ナキア皇太后、ネフェルティティという視点で掘り下げて行くと、単なるラブストーリーだけではない物が見えてきます。
それにしても悪役ながら、高貴でプライド高く存在する純也ちとせ(じゅんやちとせ)さんの風格はさすがです。
また、ネフェルティティは男役・澄輝さやと(すみきさやと)さんが演じることで、自分の身を守るために権力を手中に収めてきたネフェルティティの強さやたくましさが、印象に残りました。
ただ一つ・・・
子供時代のナキアとウルヒ。
また結婚前のタトゥーキア(後のネフェルティティ)とマッティワザが登場するシーンが、回想のようにありますが、これがよく理解できない・・・。
一体この少女と少年は誰? と謎めいて見えるので、このあたりの演出に一工夫あれば、観客の理解が容易になるのでは? と少し残念さがありました。
ナキアの少女時代を演じた、華妃まいあ(はなひまいあ)さんは『不滅の棘』で光るものを感じた娘役さん。
1曲歌うシーンもあり、期待の娘役さんです。
またタトゥーキアは夢白 あや(ゆめしろあや)さん。
前作『神々の土地』新人公演でヒロイン相当の役を演じ話題になった103期生です。
本公演でも安定の演技を見せています。
↓↓ 4. 抜擢若手の『天は赤い河のほとり』での初々しいしさ / 宙組男役スター達の活躍
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