『霧深きエルベのほとり』観劇から見えた星組生の力量
非常に強いこだわりを持って演出していくという噂の上田久美子先生。
きっとこの『霧深きエルベのほとり』でも、一人一人に細かい演技指導をしていったと思われます。
それにより、ノル香がこれまで観てきた紅ゆずるさん時代の星組作品の中ではダントツに素晴らしい完成度でした。
『霧深きエルベのほとり』での紅ゆずる
それでも、いや、だからこそ、星組生の演技の粗さが少し気になりました。
宙組でこの初夏に『オーシャンズ11』が再演されることになり、その配役発表にファン内が湧いたつい先日。
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そこで、ノル香は初演の『オーシャンズ11』の映像を見直しました。
初演の『オーシャンズ11』では、紅ゆずるさんは悪役のベネディクト役。
悪役というのは観客の印象にも残りやすく、男役の色気を存分に発揮できる「オイシイ」役です。
そのベネディクト役の紅ゆずるさんは台詞も明瞭で歌も安定、非常に聴きやすかったことに驚きました。
前作の『ANOTHER WORLD』でもそうでしたが、早口になるとちょっと聴き取れない部分が多い紅ゆずるさん。
今回の役、カールも下町のべらんめえ口調でまくしたてるように喋る役柄なので、「ん?いまなんて?」と思った部分が多くありました。
最後に、酒場の女・ヴェロニカにすがりついて号泣するシーンでノル香の涙腺も一気に崩壊。
演技自体はすごく良かったので、「台詞がよく聴き取れない」というのはもったいなかったです。
紅さん自身が持つ、「必ず笑いを作ってくれる面白い人、でも内面はとてもナイーブ」という人間性とカールがすごくリンクしていたので、余計に惜しかったなあ…。
『霧深きエルベのほとり』での綺咲愛里
相手役の綺咲愛里さんも、いかにも良家のお嬢様といういでたちはさすがでしたが、発声のキンキン声がとても気になってしまいました。
20代前半の若いお嬢さんということなので声色の高い役作りはいいのですが、終始ずっとキンキン響くので、聴き続けるとだんだん耳が疲れてきてしまって…
もう少し緩急をつけて声色を調節してくれたらなと思いました。
お嬢様ならではのおっとりさももう少し欲しかったです。
そのキンキン声に邪魔されて、マルギットの揺れる乙女心の機微が感じにくかったことも惜しい。
世間知らずのお嬢様が夢見た、たった数日間の大恋愛でのジェットコースターのような浮き沈みをもっと表現してほしかったです。
『霧深きエルベのほとり』での礼真琴
そして、マルギットの婚約者のフロリアン役、礼 真琴(れいまこと)さん。
現在の宝塚で、走攻守揃ったマルチプレイヤーといえば礼 真琴さんですので、やはりその力量は歴然。安心して見ていられました。
ただ、またここでも厳しいことを言って申し訳ないんですが…
包容力。それがあまり感じられませんでした。
フロリアンはとにかく包容力です。
あまりに勝手すぎるマルギットをすべて包み込み、突如現れた下品な水夫・カールにも寛大な心で接するオトナの男です。
どう考えても結婚するならフロリアンでしょ!というほど完璧な、完璧すぎる男性なんですが、だからこそマルギットは一点の曇りもないフロリアンに恋心を抱くことができなかったのでしょう。
要は「つまらない」んですよね。そこはよーく伝わってきました。
でも、婚約者がいきなり家出をして大騒ぎを起こしたと思ったら下品な水夫を連れてきて「この人と結婚します!」と宣言、うまくいくはずもなく、フロリアンがすべてその尻拭いをしている様子を見て…
「こんなお人好しが存在するか?」
「物わかりが良すぎる」
という違和感を抱いてしまいました。
「愛するマルギットのため」という気持ちから私欲を捨てて尽くすのでしょうが、ここでもっと包容力を感じることができれば「こんなお人好しいるか?」という感想は出てこなかったんじゃないかな~、と。
礼 真琴さんは研10ですので、大人の男の包容力を出すにはまだ少し若いのかな。
能力はもう充分。だからこそ、礼 真琴さんにはこの辺でもうひとつステップアップを期待したい。
男役10年目からは男役のダンディズムをどんどん研究していってほしいなと思いました。
役作りが上手な役者は、やっぱりすべてが丁寧です。
台詞運びも、感情表現も、所作も。
たとえそれが荒くれ者の役だったとしても、丁寧に表現していることが分かります。
だからこそ観客に「この人はこういう人物なのね」と伝えることができます。
その「丁寧な役作りをしているな」と感じるメインキャストが少なかったことが…惜しかったです。
『霧深きエルベのほとり』で輝く天飛華音
演者に対して少し厳しめな意見を述べてしまいましたが、そんな中でもノル香の目にドスーーーン!!!と飛び込んできたのは…
それは・・・ヨーニー役の天飛華音(あまとかのん)さんでした!
↓102期生の天飛華音さん。期待の新人です!
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「水夫の仲間に入れてくれ!!」
とカールたちに迫るクソガキ、という役どころなんですが、なぜか常に怒鳴っていて(笑)素晴らしい怒鳴り声でした!
普通に言えばいいこともなぜか怒鳴っていて、とっても可愛かったです。
怒鳴っていても耳障りな声にならず、よく聴き取れないということもなく、一本調子にもならず、天飛華音さんの芝居心のおかげでその仕上がりになったのかなと感じました。
ノル香が観てきたウエクミ作品、
『翼ある人びと』
『星逢一夜』
『神々の土地』
すべてに子役が登場し、どの子も本当に可愛かった!
特に今回のヨーニーはいかにも子供らしい可愛さではなく、「クソガキ」の部類。
いつも何かが気に入らなくて通年反抗期みたいな子供なのに、たまに見せる子供らしさが本当に愛らしかったです。
それをしっかりと表現できていた天飛華音さんにもあっぱれですし、なんといってもそういう演技指導をつけたウエクミ先生がやっぱりスゴイ!
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