2018年の幕開きを飾る作品となった『霧深きエルベのほとり』。
菊田一夫先生という昭和の大御所の脚本で大ヒット作の再々演です。
演出は、現在の新進気鋭・上田久美子先生が担当することになり、『霧深きエルベのほとり』再演発表時にも話題となりました。
近年の宝塚スターさんは中世的な外見とアイドルのような爽やかな個性の持ち主が多く、この『霧深きエルベのほとり』の主人公のような役をあえて持ってくることがどうなるのか。
平成も終わろうとしているこの時代に、半世紀以上昔の作品が受け入れられるのか。
「ウエクミ先生のお手並み拝見!」という気持ちで観劇して参りましたので、そのレポをどうぞ!
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『霧深きエルベのほとり』観劇感想レポ
さて、いま大流行中のインフルエンザA型でダウンしておりましてちょっとご無沙汰です…路線ノル香です。
前泊で1月11日に東京宝塚劇場で『ファントム』を観て、夜行バスで早朝に自宅へ帰ってきてそのまま発熱。
劇場かホテルで頂いてきちゃったのでしょうね…人生初のインフルエンザでした。
ずっとマスクをしていたのに頂いてしまったので、予防といっても限度があるなぁ…
東京コワイ…とベッドでうんうん唸っていました(-_-)
『霧深きエルベのほとり』宝塚は非現実が正解
運よくインフルエンザが観劇日に重ならなかったおかげで観られた『霧深きエルベのほとり』。
一言で言えば、船乗りと令嬢の行きずりの恋です。
なんという、あり得ない設定でしょうか。
でも、それでいいんです!それがいいんです!だって宝塚って、そういうものでしょう?
という気持ちを改めて確信できた物語でした。
親の決めた結婚相手が気に入らなくて家を飛び出した深窓の令嬢と、酒場でばったり出会ってしまった水夫の恋だなんて…
いくら外国のお話とはいえ、そんな恋がこの時代に現実的にあるわけないんですが、でも、それこそが乙女の憧れ。
宝塚は非現実的であればあるほど正解なんだな、ということがよく分かりました。
↓恋に落ちて幸せそうな2人。でも境遇が違い過ぎた…涙
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過去上演回を観ていないので上田久美子先生ならではの演出がどこだったのか私には確認できなかったんですが、少なくとも「これはちょっと…」と思った部分はありませんでした。
特に、以前にノル香が参加してきたウエクミ先生の講演会で「あの演出は絶対やる!」と意気込んでいた、札束でヒロインを何度もぶっ叩く演出。
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あれが実に素晴らしかった!!!
男性が女性を叩くなんて(しかも何度も)(しかも札束で)、ともすればいまの時代「モラハラ」「男尊女卑」とも批判されかねない演出です。
それをそう思わせないだけの主人公の人となりを滲ませる演出が本当に秀逸でした。
「俺は惚れた女を幸せにできるような男じゃない」
と自分を蔑んでピエロのようにおちゃらけて生きる主人公カール。
女を欲求不満の解消道具としか思っていないような最低男を演じ、見事な愛想尽かしを見せることで、最後のカールの悲しみが一層際立ちます。
ウエクミ作品ですからハッピーエンドは絶対にないと思っていましたが(;^ω^)いつも観劇後は絶望ではない感情が心を満たします。
「そんなこともあるよね、それでも人は生きていかなきゃ」
という希望が湧いてくるのが本当に不思議で、それこそが「ウエクミ、天才!」と称賛される所以でしょうね。
ノル香は基本的にはハッピーエンドが好きなので、できれば最後にマルギットがカールに追いついて結ばれてくれれば…と思わないでもないのですが…
それでもやっぱりあの2人じゃあまりにも価値観が違い過ぎて、「好き」という感情だけじゃやっていけなかっただろうな、と思いました。
そしてまた、「俺はやっぱり惚れた女を幸せにできるような男じゃない、海が恋人さ!」と言わんばかりに独りで生きていく姿がカールという男をより魅力的に見せるのでしょうね。
マルギットが怒りの感情をピアノにぶつける癖があるという設定も、とても素敵でした。
オケピを見たらピアノ演奏の方が音を出していたようですが、でも綺咲愛里(きさきあいり)さんの指の運びはきちんと正しい場所を叩いていたように見えました。
ピアノが音楽学校の必修科目にあるタカラジェンヌならでは、ですね。
泣き濡れるでもなく、ヒスを起こすでもなく、狂ったように鍵盤を叩くという感情表現がとてもはねっかえりの令嬢らしくて。
また、マルギットの婚約者フロリアン(礼 真琴さん)が、ピアノをやめなさい!とマルギットに一喝するのも、まるでマルギットが聞き分けのない子供のように見えて、マルギットの幼さが見えてとても良かったです。
↓下品な水夫なのに黒燕尾が恐ろしく似合ってしまう紅さん…
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「コトが済んだらお前を捨てる」と脅すカールに、「そうなの~?」と意外すぎる反応を見せるマルギット。
お嬢様すぎてぶっ飛んだ感性を持っているマルギットに調子が狂ってしまうカール、そして惹かれていく。
あまりに正反対すぎる2人だからあれほどまでに強く惹かれた、でも正反対すぎて結ばれることが非現実的すぎる。
そう思えば現代の恋に通じるものもあり、観客は「そういうこともあるよね…」と共感し、涙する。
一見、「あり得ない設定」に見せつつも、根底に流れる観念は現実世界に通じるものがあるというのは、上質な物語の基本のように思います。
ウエクミ作品の前作が『BADDY』という、型破りも型破りな作品であり、そしてその次がこの超古典作品だなんて…ウエクミ先生の振り幅の大きさもまた、「天才」の所以のようですね。
↓↓2.課題は…演者たちの細かな人物描写
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