上田久美子先生講演会を拝聴したノル香の感想
まず、大前提として。
ノル香はウエクミ作品の大ファンです。
これまで発表されてきたすべての作品が大好き!
特に、ファンの中でも賛否分かれた『BADDY』を観た時はもう、開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けました。
ノル香はこれまでに観てきた演出家の中では荻田浩一先生がダントツで好きでしたが、荻田先生とウエクミ先生は今のところノル香の中で二大巨頭。
これまで観てきた両者の作品は、100%ハズレナシでした。
以前からずっと「ウエクミ茶やってくれ~!!」と周囲に叫んでいたほど、ウエクミ先生の脳内を愛していました。
そしてついに実現した念願のウエクミ茶(お茶はないけど)。
「どんな声なの?」
「どんな喋り方をするの?」
「どんなことをお話してくれるの?」
と、お話上手の大人の話をワクワクして待つ子供のような顔で上田久美子大先生の登場を待ちました。
でも。
いちライターとして偏ったことは書けない!と盲目的にならないよう、気を引き締めて拝聴いたしました。
私たちが人生をかけて楽しませてもらっている宝塚歌劇の作品を創作している、創造神のような存在の演出家の先生のお話。
雑誌『歌劇』などで文字として先生が考える作品のテーマや目的を知ることはできますが、やっぱり生の声で聴くとまた感動度が全然違いました。
【上田久美子先生講演会】天才作を天才と一緒に観る感動
講演の途中、スクリーンにウエクミ先生の過去作品として『BADDY』のオープニングとフィナーレ映像が流れ、その創造主と天才作品を一緒に観るという感動体験などもありました。
あの天才作をご本人は一体どんな顔で観るのだろうか…と思い、映像そっちのけで先生のご尊顔を凝視していたノル香。
…いたって冷静な真顔でご覧になっていらっしゃいました(笑)
他にも、これから演出される作品『霧深きエルベのほとり』の順みつきさん主演バージョンの映像も一緒に観て、札束でヒロインを叩くというトンデモ場面をウエクミ先生が「この場面、大好きなんです!」「この演出、わたし絶対やりたいと思ってるんです」という興味深いお話も。
「女性軽視だ!」「お金で人を何度も叩くなんて!」という声があがりそうな現代こそやってやる!という、『BADDY』における煙草の扱いのような、相変わらずのウエクミ先生の反骨精神みたいなものを見ました(笑)
『BADDY』でいちばんのお気に入りは煙草型のシャンシャンだということも。
ノル香も初見時、あれには仰天&大感動!!
実はあれは小道具さんのアイデアだそうで、実際に完成品を見るまではあんなにうまくできているとは思わずに、先生自身もとても感動したそうです。
おこがましいながらも、ノル香もモノを作り出すという仕事をしている立場として、確かに自分が面白いアイデアを出すと相乗効果が生まれて、周囲の人たちがそれをさらに盛り上げてくれる案をたくさん出してくれることがあります。
小道具さんの「こんなの面白くない?!」というアイデアも、ウエクミ先生の飛びぬけた発想が刺激した名案だと思いますね。
扇子が閉じて煙草になるなんてね!
でも、あれを見たお知り合いから「あんなのをよく阪急電鉄が許可したね(笑)」と言われたそうです。確かに(笑)
でも、「煙草は悪だ!」とする近年の風潮があったからこそあの演出があれほどの効果を生んだのだと思う、と。
【上田久美子先生講演会】時代の変容に対するウエクミ先生の拒絶反応
有識者やコメンテーターなどがよく言う、「現代は~」「最近の若者は~」という言葉。
たいして一般社会を知らないのに「とりあえず批判しとけ」みたいな人も中にはいるように感じます。
しかし、ウエクミ先生はそれとは違う、きちんとした体験や体感をもとにお話しされていることはよく分かりました。
あれだけの文字数のレジュメをもってすればもう充分に(笑)
確かに、以前は近所に「挨拶しないと怒るオヤジ」とか、体罰当たり前の暴力教師とか、ひいては親までが「どうせあんたが悪い」と一方的に決めつけて子供の味方に立ってくれなかったことなんかもありました。
多くの子供はそのような理不尽な目に何度か遭って、精神的にたくましく育ちました。
ウエクミ先生は奈良県天理市出身ですが、冬の休み時間は裸足で校庭を何周も走らされたとか…!
東京出身のノル香にはそういう経験はありませんが(;^ω^)なんだか戦時中みたいですよね(笑)
今これを学校がやったら大変なことです!
そこまでのものはなくとも、ノル香もやっぱり「今だったら事件になってるな…」ということばかりでした。
そこが「ゆとり世代」と呼ばれるアラサー以下の皆さんとの大きな違いであることは、ノル香も感じてはいます。
ウエクミ先生の言う、「痛みを遠ざけたり目をそらしたりしてはいけない、強くなれない」という言葉も仰る通り。
でも、ここはウエクミ先生とノル香の大きな違いなんですが、ノル香は時代の変容を受け入れる派と言えます。
例えば日本語だってそうです。
我々はいつまでも古代や中世の言葉を使っていませんよね。
何千年、何百年、数十年単位でも日本語は変わっていきます。
いまでも「いと をかし」とか「痛くはござりませぬか?」みたいな言葉を使っている人なんていませんよね(笑)
そのように、より使いやすく、より便利なように、言葉も物事もどんどん変わっていきます。
例えばそうですね…「ら抜き言葉」なんてのがいちばん分かりやすいでしょうか。
「食べられる」を「食べれる」と言ったりするアレです。
ノル香は、日本語を正しく扱わなければならないライターという仕事をしているとはいえ、日本語の変化を受け入れる考えを持っています。
もちろん、ライターとして自分は正しい日本語を使う義務と責任があると思っているので間違った日本語は使わないよう注意は払っていますが。
周囲がどのような言葉を使っていても、相手に誤解なく意味が通じればそれでいいじゃん!みたいな感覚です。
よく、テレビなどで「正しい日本語」を解説して「本来はこういう意味!こういう使い方!」なんてドヤってる言語学者の先生がいたります。
例えば…「敷居が高い」という意味は、皆さんは「料亭なんて自分には敷居が高くてとてもとても入れない…」みたいな意味で使うことが多いのでは。
でも本来は、顔を合わせにくい後ろめたい事情があるところに行きにくい、という意味で作られた言葉です。
しかし、じゃあどちらの意味が今の日本で定着しているかといえば、前者のほうです。
逆に、後者の正しい意味で使ったら「それ使いどころ違くない?」なんて指摘されてしまいそう(;^ω^)
それだったらもう、通じるほうが正解なのでは?というのがノル香の考えです。
諸行無常。
変わらないもののほうがこの世には少ないと思っています。
日本語も変わるし、会社でのデスクワークだって一人1台のパソコンだし、連絡だって電話よりLINE、FAXよりメール添付。
子供の耐性度や若者の考え方、悪の意義だって変わらないわけがない。
それをしっかり受け止めて、そういう時代にフィットしたものを提供するのも優秀なクリエイターの一人と言ってもいいと思うんです。
思うに、ウエクミ先生はきっとこれまで劇団にプレゼンしてきた脚本でいろいろと制約を受け、「これはダメ」「これもダメ」と言われて悔しい思いをたくさんしてきたのでしょう。
ノル香の大好きだった荻田先生が退団なされたのも、きっとそういう多すぎる制約によって表現が狭められることが理由だったのでは…と思います。
そのときに劇団が推したい生徒さんと自分の方向性が合わないとか、すみれコードとか、特に宝塚は他の劇団よりもずっと制約が多そうですもんね。
「こんなクレームが出るかもしれないからやめておけ」
「その生徒じゃなくてこっちの生徒を使ってほしい」
なんてくだらない理由で自分の思い通りの作品が作れないのは作り手としてたまらなくストレスを感じるものです。
またほんとにおこがましい話なんですが…やっぱりノル香だって、とある大手さんのライター時代に「このネタ、絶対面白い!書きたい!」と思っても、編集部からNGが出ると本当に悔しかったものです。
そういう思いから、
「昔の宝塚は今ほど制約がなくて良かった、あの時代みたいに私も自由に思うような作品を作ってみたい」
とウエクミ先生が願うのは当然ですよね。
でもそれはある意味、【懐古主義】と言ってもいいかもしれません。
ノル香は実はあまり懐古主義が好きではなくて…。
昔のものもいいけど、今のものもいい。
それでいいんじゃないかなあ?という感じです。
「昔の演出はこんなに自由だった」という例の一つとして、1978年に公演された異色ショー『エコーズ』の中から、カマキリのダンスを紹介。
す、すごい…!!(;^ω^)
いろんな意味ですごい…!
ウエクミ先生は、今なら絶対にありえないようなこんな場面でも実現した自由な時代が羨ましいのかもしれません。
それほどまでに今ご自身が演出していて息苦しさを感じているのかもしれないな…と。
しかし、演出家も大変ですね…もともとヅカファンだったわけではないなら、死ぬほどある過去作品を、入団してから一気に学ばなければいけないのですから。
しかもエコーズ、ノル香も存在は知っていましたかなりマニアック!
↓↓4.名作はいつの時代も苦悩から生まれる
コメント
ノル香様
こんにちは。
ウエクミ講演会、凄く興味あったので、レポ嬉しいです。
出来ればレジュメ、出版して欲しいほど。
女帝3名の作品、好きです。
ウエクミ先生の作品は、終わってからずーーんと心に残りますよね。
ララランド見ましたけど、ウエクミ先生と同じように感じました。内容があまり残らない。
だったら、もっとミュージカル的で良かったのに、と。
茜さすのくだりも興味深いです。
でも、そういう感情って、ある程度年齢を重ねないと分からないのかもなぁって思いました。
宝塚って不倫ドロドロ、特に柴田先生作品多いですが、根底はどちらも魅力的で選べない、なんでしょうし、世間でも、女優の方や元オリンピック選手の方など騒がせてますが、その気持ち、分からないでもない。
若い時は猪突猛進みたいなことありますし、まぁそれが若さでもある。
そして、ノーマークだった星組公演、断然楽しみになってきました。
ありがとうございました。
追伸 バウでのステッカー大切な思い出です
おさひろさん
ご訪問とコメントをありがとうございます。
管理人のすみれ子です。
本当に上田久美子先生の作品は、小説のように心の中にしっとりとした余韻を残し、
味わい深いモノがありますね。
作・演出家としてデビューされて以来、宝塚での上演作はすべて観劇しますが、その秀逸さには
毎作品驚かされるばかります。
確かに数々の名作を書かれた柴田侑宏先生の作品。作品としての奥行きのある作品と深さは、
素晴らしいと思います。・・・が、おさひろさんがおっしゃるように「不倫」が描かれているのは
私自身「うーーーん・・・・」と思ったりも(苦笑)。
恋愛や結婚は時代と共に変化しているので、時代背景を考えれば、そういう形態にとらわれない時代
を描かれているからなのだろう、と思っています。
なにはともあれ、宝塚の作・演出家といえば、ほんの20年くらい前(でしょうか?)まで男性陣が
しめていたのですから、上田先生、小柳先生といった女性がどんな活躍をしてくださるのか非常に
興味深いところですね。
@おさひろ様
コメントありがとうございます!
普通の公演と違ってこのような講演会はなかなかレポを書いている人が少ないですよね~。
楽しんでいただけて良かったです!
ウエクミ先生は一貫して「もっと自由な表現を!」と訴えていたようですので、演出家としてやはり窮屈さを感じているようでした。
でも、そんな制約の中でこそ光る先生のようにも思えましたし、そんな反骨精神があったからこそあの講演会の内容になり、あのレジュメになったわけですもんね。
悪いものになぜか惹かれてしまう、いけないとわかっているのにそちらに向かってしまう人間臭さをスミレコード内でこれからも絶妙に表現し続けてほしいです。
そして観たあとに、「不倫はいかん!二股もいかん!……でも気持ちはわかる(-_-)」という激しい葛藤を残す作品作り、期待したいですね。
路線 ノル香様
初めまして、いきなりのコメント失礼いたします。
このレポを読んで、本当に行きたかったと心底思っています(。-_-。)
突然なのですが今、大学の卒業論文で宝塚歌劇団のことについて書いています。
その中で上田久美子先生のことも書きたいのですが、どうしてもそのレジュメが読みたいのです。
もし路線様がよろしければ下記に書いてあるメールアドレスにメールを送ってきてくださいませんでしょうか?
そのままくれ、原本をよこせというのではないことではありません。
いきなりで失礼なのは重々存じておりますが、ご協力くださると本当に嬉しいです。
失礼いたします。
なるさん
ご訪問とコメントをありがとうございます。
管理人のすみれ子です。
卒論のテーマに「宝塚」とおっしゃるファンがいること、オールドな一人の宝塚ファンとして嬉しく
思っています。
また改めて路線ノル香から連絡があると思いますので、今しばらくお待ちくださいね。
女性の演出家も何人か誕生した宝塚ですが、「女性」とかそういうくくりではなく、一人の演出家と
して、もう上田久美子先生の世界観はファンを魅了する要素がいっぱい。
じっくりと研究してくださいね。(←一応エールのつもり ^^)
研究を離れた視点でも、またお立ちよりいただければ幸いです。